水際喫茶室|お魚・エビに一喜一憂

レッドチェリー

検索図鑑の注意点

 目の前の生き物について、なんという種なのか調べたい時に、検索表・分類表・検索図鑑等とよばれる資料を使う事があります。その種類は、博物館や自治体が配布している一般向けのものから、専門家向けの書籍や論文まで様々です。
ネット上や雑誌等で淡水エビに関する情報を見ていると、一般の方が専門的な検索表を使用している事もありますが、時々使用方法や解釈に誤解もあるようです。ここでは、一応自分が昔使っていた頃を思い出して、注意点をあげてみました。
 【ご注意】この記事は、「エビの種類を見分けるのは難しい」と言いたいわけでありません。生体を観察している限り、種をおおよそ見分けるのは実はそれ程難しいことではないと思います。けれど、博物館や大学等、研究施設が行っている厳密な意味での「種の同定」と、愛好家をはじめ多くの人が行っている「一般的に種を見分ける」事は、本質的に全く違う作業です。専門的な検索表は、使用する上で必ず守らねばならない規則やその理由があるのですが、一般の方がそれに触れる機会はあまり無いだろうと思いましたので、あえてまとめてみました。(2011年4月29日「ご注意」以下補足)

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分類の基本と検索表

 人間は、生き物の種を記録する際、まず姿形が似たような種同士を集めてひとまとめのグループにし、分類・整理してきました。ある共通の特徴を持っている種を集めてひとまとめのグループにしたものが「属」、同じように、共通の特徴を持った属を集めたのが科・・・という具合です。この分類段階と呼ばれるグループの段階は、下から(小さい方から)順に種→属→科→目→綱→門→界と、上がって(大きくなって)いきます。
実は、この時使われている「共通の特徴」は、「グループ内では共通」だけど、「他のグループとは区別できる特徴」でもあります。生物の分類検索表は、この「共通の特徴」の中から、標本になっても比較的変化しづらいものを選んで判別点にしている事が多いようです(=必ずしもここだけが判別できる点という事ではありません)。基本的には分類段階の上から下に向かって、判別していきます。

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実際の注意点

 検索表を使って同定を行う(=種をつきとめようとする)場合、必ず守らなければならない点。最初にお断りしておきますが、種まで特定できない事は、実は専門家にもよくあります(理由は様々)。検索表を使っての判別は本来、専門的な知識があったとしても、沢山の標本を見て訓練(経験)が必要な技能です。

【前置き】対象地域の範囲を確かめる
例えば、主に九州以北を対象にした検索表では、南方系の種は判別できません。また、日本全国を扱うような広範囲の検索表の場合は、代表的な種のみ掲載している事もありますので、目的の種が見当たらない事もあります。
【前置き】どの検索表を使ったか、きちんと記録する
研究は日夜進んでおりますので、検索表が作られた後に、種の枠組みが変更されたり、新種が発見されたりという事もあります。どの検索表を元にしたのかが判れば、見直さなければならない範囲や、使えない範囲が判ります。淡水エビの場合、現在多くの検索表では、ヌマエビ属2種(ヌマエビ・ヌカエビ)についての判別が出来ません。(2011年4月24日追加)
【基本】検索表の最初の方から開始
具体的な特徴を根拠に、「このグループです」と言い切れる専門家でないなら、手元の検索表の「最初から」始めて下さい。いきなり種の詳細ページを開き、そこに書かれている特徴の一部合致のみを根拠に同定を行ってはいけません
【基本】完全に判別出来た所まででストップ
書いてある事の意味が判らなかったり、手元の標本(生体含む)を見ても判らなければ、そこまででストップです。確実に見分けられた分類段階までしか、判別してはいけません。余程はっきりした特徴を持っている種でなければ、全くの一般人なら科まで、専門以外の生物系なら属まで落とせれば十分だと思います。
 専門家でも判別出来ない例:未熟な個体では、種の特徴となる部位が未発達。標本が欠損。個体差が大きく判断が出来ない。奇形。標本では差異が見分けづらい等多数。(個体差の範囲と奇形かどうかは、沢山の個体を観察する事で判別できるようになってきます。個体差の程度も、種によってかなり差があります)
【重要】種まで落とし込めても、必ず確認を
なんとか種までたどりつけた場合、必ずその種の詳細解説を読み、そこに書かれている特徴が合致しているか、確かめて下さい。特徴が種の詳細と合致しなかった場合は、上の分類段階(属等確実なところまで)で保留です。研究者の場合、そこから先は「その分野の分類専門家」に念のため確認してもらう事も良くありますが、管理人が昔関わった中には、そこで後日新種が発覚した例もあります。
特に、見慣れていないうちは、種までたどりつけたと思っても間違っている事が良くあります。同定実習をしていても、最初は珍回答が続出(私は、どう見てもミナミアカザエビなのに、イセエビにたどりつきました。かなり序盤で失敗しています)。あなたが研究者ではなく、厳密に同定する必要が無いなら、私は図鑑やネットで沢山の写真を見て、「いつもの感覚で絵合わせ」する事の方をオススメします。ただし、淡水エビについては、多くのサイトや雑誌・販売店でヌマエビがミゾレヌマエビになっていますのでお気をつけ下さい。お店で売られている「ミゾレヌマエビ」は、ほとんど「ヌマエビ」です。(岩さんの蝦三昧が取り違えていないおすすめサイトをまとめて下さってます。→「川や池の淡水エビの名前を調べるのにお薦めのページ」(別窓で開きます)2011年4月24日補足)

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【補足】分布域について

 図鑑や論文に書かれている分布域は、「そこにしか生息していない」ではなく、「そこで採集された記録がある」という解釈をするのが正解だろうと思います。
1種が2種に分けられたり、1種の枠組みが変わったりする場合は、分布域を含む全てが根本から調査しなおしになる事もあります。(2011年4月24日追加)

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【補足】種をつきとめる「同定」って、どんな作業?

タイプ標本と同じ種なら、その種

 生物の種名をつきとめる事を「同定」と言います。厳密な意味での「同定」は、私達が普段身の回りの生き物の種をなんとなく見分けている事とは、全く違う作業です。例えば、大抵の人はスズメを見れば「スズメだ」、モンシロチョウを見れば「モンシロチョウだ」と、判るのではないかと思いますが、これは分類学的に「同定」しているとは言えません。
分類学では、生物の種は全て「タイプ標本」と呼ばれる新種記載の大元になった標本によって定義されています。同定は、「タイプ標本と同じ種だと言えるかどうか」(かつ、他種のタイプ標本とは違う種だと言えるかどうか)という判断です。生物分類検索表は、この判断を簡易的に行う目的で作られています。

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【補足】エビの同定で、模様を手がかりにしないのは何故?

 新種記載論文に色柄についての記載が無い種類が多いからです。また、模様は種によっては個体差が大きいため、見極めに注意を要する形質でもあります。模様を同定に使用するためには、きちんと同定した個体で模様についての研究報告がなされる必要があります。
 特徴的な模様についての報告が既になされている種については、模様を判別点に出来る事もあります。

  • 4コマによる、脱色されたアルコール標本の話(ブログ側・別窓で開きます)→ ラボ4コマ 15

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2011年04月23日公開、24日、29日一部内容を追加

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